memo

YASUTOMI Ayumu, Plato

メノンのパラドクス 論語の知識論の重要な点は、「知る/知らない」という状態よりも、世界への認識の枠組みを遷移させる学習過程としての「知」を重視する点にあると私は考える。 この点については、プラトンの『メノン』に現れる探求に関するパラドクスと…

Jean-Pierre Dupuy, catastrophe and evil

原爆という罪 ハンガリー出身の物理学者で、アインシュタインとともにルーズベルト大統領に書簡を送り、マンハッタン計画の推進を決断させたレオ・シラードは、没する少し前の一九六○年にこう表明していた。「ナチス・ドイツがわれわれよりも先に原子爆弾を…

HIRAKAWA Katsumi, the dignity of man

尊厳 居間で上着を脱がせて、風呂場の脱衣場で下着を脱がせる。脱がせた下着はそのまま洗濯機に放り込み、洗剤を入れてスイッチをオンにする。まだまだ寒いので、衣服を脱がせたらすぐに湯船に入れなければならない。湯船につかると、数分間、気持ちよさそう…

KUMAGAI Tatsuya, Hunter

物語 「わがった。んだら、追ってみるべし」 そう頷くや、小太郎と敬太郎が嬉々として沢が流れる谷底へとケツ橇で下りはじめた。清次郎と金吉、さらに重之と、残りの三人も縦に連なってそれに続く。 敬二郎を助けながら谷を渡り、先に駆けていった仲間が待っ…

KUBO Shunji, Hunter

人間 沢筋を毎日歩き、新しい跡を探した。二日前に歩いた沢のそばのフキ原に新しい食痕があった。背の高さほどあるフキ原の中に一、二畳ほどの空き地ができていて、そんな場所が二、三カ所あった。フキを食った跡である。フキの茎の中ほどのところを食ってい…

YOSHIMURA Akira, Hunter

自然 三毛別の村落内には、事故の全容がすさまじい早さでひろがっていった。 島川の妻の体が原形をとどめぬまでに食いつくされ、殺された子供との通夜の席に羆が板壁を破ってふみこみ、さらに、明景の家で四名が殺害され三名が重傷を負わされたことがつたえ…

YOMOTA Inuhiko, Nietzsche

負債 だけど、どうしてそれは罪の意識なのか。どうして自分の運命が罪によって充満していると、きみは考えてしまうのか。ぼくに気になるのはこの点だ。 きみは書く。「あれ以来、わたしがいちばん恐れてきたのは、いつか罪の意識そのものが消えてしまうかも…

HIROSE Jun, Pessoa

本のタイトルにもなった題がついたエッセイにある言葉。マノエル・デ・オリヴェイラ監督の映画『ブロンドの少女は過激に美しく』の中で紹介されるフェルナンド・ペソアの詩集−−ペソアはいくつもの異名をもつポルトガル人作家で(pessoaは、ポルトガル語で「…

AZUMA Hiroki, Rousseau

ルソーを見直す ルソーは都会の「おしゃべり」を嫌った。そして自然を愛した。四○年代の半ばからはパリを離れ、郊外の田園に居を構え、作品でも田舎暮らしへの郷愁を執拗に描き続けた。死後に出版された『告白』には、ルソーが同時代のサロン知識人に抱いて…

KOKUBUN Koichiro, ennui

人間的自由の本質 ここで誤解してはならない。人間は習慣なくしては生きられない。人間はどうあっても、気晴らしと退屈の混じり合った生を生きざるを得ない。だから、この条件を超越して、考えることのきっかけをすべて受け取ろうと考えたり、人に「目を開け…

KAWAMOTO Hideo, autopoiesis

理論の「間接的活用」 オートポイエーシスというのは、あらかじめ設定された観点であってはいけないのです。オートポイエーシスをあくまで道具として活用したい人は、経験を前に進めるときに,傍らにいつも手掛かりとして置いておいて,それを横目で見ながら、…

YASUDA Yojuro, OTOMO Yakamochi

防人について 彼らは時局に対して志士の如くに立つことは思ひよらなかつた。彼らは政治の裏面の頽廃は知らず、情勢の帰趨も知らず、しかも美しい畏命の心情に住んで、よく国の根柢の、沈黙の土台となり、この同じ意味から当時の上層の陰謀政治をも支へてゐた…

YAMASHIRO Mutsumi,SAKAGUCHI Ango

戦争について われわれは、その芯にある美しさにひかれて「戦争」に帰りつつある。危険な日本回帰だと、帰ることそのものを否定しても始まらない。問われなければならないのは、そのことに「うしろめたさ」を感じているかどうかということ、そしてほかならぬ…

MIYAZAKI Goro,

コクリコ坂から@シネピピアめふ。 懐かしい。懐かしすぎる。画面に出てくるものが。出てくるものの動きまで。 宮崎吾朗は、(前作に比べて)よくやったと思うが、映画としては「ポニョ」のほうが、私としては面白かった。 動く画としての面白みでいうと、オ…

KOBAYSHI Toshiaki,

〈主体〉のゆくえ-日本近代思想史への一視角 (講談社選書メチエ)作者: 小林敏明出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/10/08メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 2人 クリック: 29回この商品を含むブログ (8件) を見る

TAJIMA Masaki,

正義の哲学 (道徳の系譜)作者: 田島正樹出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2011/04/19メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 29回この商品を含むブログ (10件) を見る以前に書かれていたものと重なる部分もあるが、インタヴューがもとになっているせいか…

SASAKI Ataru

切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話作者: 佐々木中出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2010/10/21メディア: 単行本購入: 30人 クリック: 710回この商品を含むブログ (130件) を見る危うげに感じる所も窺えるが、たしかに元気づ…

Noli Me Tangere (Touch Me Not)--Do Not Cling to Me

拒みながら、触れる−−私に触れるな たとえば園丁に姿を変えたイエスは、幅広の帽子を被り、庭園を耕すシャベルをかついでいる。そのシャベルを描こうとするとき、画家の筆は何を考えていたであろうか。その画家の筆を描こうとするとき、哲学者はデューラーの…

morning, blue, dragon

朝 朝はやくのアダムのように 眠りで爽やかになり樹陰から歩みをすすめる わたしをごらん わたしの通っていくところを、聞きなさいわたしの声を、近よってきなさい 触りなさい わたしに、きみの手のひらを触らせなさい 通りすがりのわたしの肉体に、 恐れて…

HOSOMI Kazuyuki, Arendt

『「戦後」の思想−−カントからハーバーマスへ』(細見和之、白水社、2009年、ISBN:4560080321)を読む。 野生のアーレント アーレント自身は『人間の条件』において、「約束」、「赦し」、「始まり」をすべて「活動」ないしその「潜在能力」のなかに押し込め…

IMAFUKU Ryuta, Borges, Jabès

『身体としての書物』(今福龍太、東京外国語大学出版会、2009年、ISBN:4904575024)を読む。 一冊の書物としての世界 最後に、講義の冒頭で言及した山口昌男『本の神話学』所収の「カバラの伝統−−ゲーテ、フロイト、ボルヘス」から、興味深い文章を引用して…

MINATO Chihiro, Maurice Blanchot

『愛の小さな歴史』(港千尋、インスクリプト、2009年、ISBN:4900997250)を読む。 監督アラン・レネ『ヒロシマ・モナムール』(日本公開時のタイトルは『二十四時間の情事』)1959年、脚本マルグリット・デュラス、主演岡田英次、エマニュエル・リヴァ。 わ…

OHGA Yuhki, Arendt, Dewey, Rorty

『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(大賀祐樹、藤原書店、2009年、ISBN:4894347032)を読む。 多数性あるいは多元性 つまり、現代には「政治経済学」なる学問まであるが、アレントは動物としての生命維持に関わる「経済」と…

SHIBATA Toshiko, Arendt

『リベラル・デモクラシーと神権政治 スピノザからレオ・シュトラウスまで』(柴田寿子、東京大学出版会、2009年、ISBN:4130101110)の第六章(「政治的公共圏と歴史認識」−−アーレントにおける「光の物語」と「闇の記憶」)を読む。 自分の住処を自由にかえ…

NAKAMASA Masaki, Arendt

『今こそアーレントを読み直す』(仲正昌樹、講談社現代新書、2009年、ISBN:4062879964)を読む。 過去、共同体、判断 個人の「意志の自由」をめぐる問題系から、政治共同体における「自由」をめぐる問題系へと話題を移すことを正当化するには、人間の「精神…

OHTA Tetsuo, Arendt

『ハンナ=アーレント』(太田哲男、清水書院、2001年、ISBN:4389411802)を読む。 意志 アーレントはこの本の「ドゥンス=スコトゥスと意志の優位」において、中世哲学者ドゥンス=スコトゥスを極めて高く評価する。彼女はスコトゥスの言葉、 意志する、否と意…

HAGIWARA Sakutaro

『猫町 他十七篇』(萩原朔太郎、岩波文庫、1995年、ISBN:4003106237)を読む。 「何が坂の向うにあるのだらう?」 坂のある風景は、ふしぎに浪漫的で、のすたるぢやの感じをあたへるものだ。坂を見てゐると、その風景の向うに、別の遥かな地平があるやうに…

SAWANO Masaki, Gilles Deleuze

『ドゥルーズを「活用」する!』(澤野雅樹、彩流社、2009年、ISBN:4779110564)を読む。 虚構−−手書きの地図 よく出来た映画は我々に無知ゆえの猛省を促し、知の空隙を埋めてくれる有り難い贈り物だとでも言いたいのか。いや、そういうことが問題なのではな…

YAMAGUCHI Masao, anthropology

『学問の春』(山口昌男、平凡社新書、2009年、ISBN:4582854796)を読む。 さまよえる学者たち それが唐突な考え方ではない証拠に、ヨーロッパ中世にフランソワ・ヴィヨン(1431-63?)という詩人がいました。この詩人は詩の先生と共にヨーロッパの大学を渡り…

refugees who call themselves/each other 'newcomers'

『菩提樹』『続菩提樹』(1956年、1958年、西独、ウォルフガング・リーベンアイナー監督)をDVDで観る。スピーディでユーモラス、ヴァイタリティと美しい歌声。2枚合わせて約200分。とくに亡命後の「in Amerika」のほうは、50年代のアメリカの街並みを背景…