YOMOTA Inuhiko, Nietzsche

再会と別離

  • 負債

 だけど、どうしてそれは罪の意識なのか。どうして自分の運命が罪によって充満していると、きみは考えてしまうのか。ぼくに気になるのはこの点だ。
 きみは書く。「あれ以来、わたしがいちばん恐れてきたのは、いつか罪の意識そのものが消えてしまうかもしれない、苦しまなくなるかもしれないという、そのことでした。」
 ぼくは書く。今のきみに必要なことは、罪の意識でもなければ、故人をめぐる記憶でもない。動物のような忘却だ。」p127

 負債を背負って生きていくのはよくないよ。罪の意識など虚構のものだ。死に際にしてようやく自責の念から解放されるというのなら、きみはそれまでの人生において多くのものを取り逃がしてしまうだろう。自分の運命をひき受けるということと、罪の意識の奴隷となることとは、まったく別のことだ。(……)再会がありえない別離に振り回されて、自分が地上の生者の世界に生きているという事実に目を塞いでしまってはいけない。ぼくはこれを、きみに面と向かって語ろうと思う。p130-131