Quintus : The War at Troy ; What Homer didn't tell

トロイア戦記』(クイントゥス、松田治訳、講談社学術文庫、2000年、ISBN:4061594478)を読み始める。

  • アイアース自死のあと、この戦いで自身の息子を失ってもいるネストールが人々の涙をいさめていう次の言葉。

「……。じゃが、戦いで倒れた者たちのために連日涙を流し、心を痛めるのは許されませんぞ。女々しい涙は忘れるべきじゃ。というのも、死者のためにふさわしいこと、すなわち薪の山や墓標をこしらえ、彼らの遺骸を埋葬するほうがよいのだから。死体が我々の涙で立ち上がることはないし、容赦ない死神たちがこれを呑みこむとき、死体はなに一つ理解するすべもないのじゃ。」(「第5巻 アイアースの自殺」p187)

この言葉は、「心の中で嚇怒するのはほめたことではない。賢明な男のなすべきことは、攻め寄せる数々の苦悩を胸のうちで堅固な心で支え、苦しみに負けないことなのだ」と締めくくったオデュッセイアの弁解の言葉よりも、ずっと人々の心をなだめたのである。

トロイア戦記 (講談社学術文庫)