2012-01-01から1年間の記事一覧

YASUTOMI Ayumu, Plato

メノンのパラドクス 論語の知識論の重要な点は、「知る/知らない」という状態よりも、世界への認識の枠組みを遷移させる学習過程としての「知」を重視する点にあると私は考える。 この点については、プラトンの『メノン』に現れる探求に関するパラドクスと…

Jean-Pierre Dupuy, catastrophe and evil

原爆という罪 ハンガリー出身の物理学者で、アインシュタインとともにルーズベルト大統領に書簡を送り、マンハッタン計画の推進を決断させたレオ・シラードは、没する少し前の一九六○年にこう表明していた。「ナチス・ドイツがわれわれよりも先に原子爆弾を…

HIRAKAWA Katsumi, the dignity of man

尊厳 居間で上着を脱がせて、風呂場の脱衣場で下着を脱がせる。脱がせた下着はそのまま洗濯機に放り込み、洗剤を入れてスイッチをオンにする。まだまだ寒いので、衣服を脱がせたらすぐに湯船に入れなければならない。湯船につかると、数分間、気持ちよさそう…

KUMAGAI Tatsuya, Hunter

物語 「わがった。んだら、追ってみるべし」 そう頷くや、小太郎と敬太郎が嬉々として沢が流れる谷底へとケツ橇で下りはじめた。清次郎と金吉、さらに重之と、残りの三人も縦に連なってそれに続く。 敬二郎を助けながら谷を渡り、先に駆けていった仲間が待っ…

KUBO Shunji, Hunter

人間 沢筋を毎日歩き、新しい跡を探した。二日前に歩いた沢のそばのフキ原に新しい食痕があった。背の高さほどあるフキ原の中に一、二畳ほどの空き地ができていて、そんな場所が二、三カ所あった。フキを食った跡である。フキの茎の中ほどのところを食ってい…

YOSHIMURA Akira, Hunter

自然 三毛別の村落内には、事故の全容がすさまじい早さでひろがっていった。 島川の妻の体が原形をとどめぬまでに食いつくされ、殺された子供との通夜の席に羆が板壁を破ってふみこみ、さらに、明景の家で四名が殺害され三名が重傷を負わされたことがつたえ…

YOMOTA Inuhiko, Nietzsche

負債 だけど、どうしてそれは罪の意識なのか。どうして自分の運命が罪によって充満していると、きみは考えてしまうのか。ぼくに気になるのはこの点だ。 きみは書く。「あれ以来、わたしがいちばん恐れてきたのは、いつか罪の意識そのものが消えてしまうかも…

HIROSE Jun, Pessoa

本のタイトルにもなった題がついたエッセイにある言葉。マノエル・デ・オリヴェイラ監督の映画『ブロンドの少女は過激に美しく』の中で紹介されるフェルナンド・ペソアの詩集−−ペソアはいくつもの異名をもつポルトガル人作家で(pessoaは、ポルトガル語で「…

AZUMA Hiroki, Rousseau

ルソーを見直す ルソーは都会の「おしゃべり」を嫌った。そして自然を愛した。四○年代の半ばからはパリを離れ、郊外の田園に居を構え、作品でも田舎暮らしへの郷愁を執拗に描き続けた。死後に出版された『告白』には、ルソーが同時代のサロン知識人に抱いて…