Malta, Gozo

昨夕はホテルの近所を散歩。St.George's Bayの北側の岬にある二つの大きなリゾートホテルを越えて反対側の海が見えるところまで。たぶんは欧州から来ている多くは若者たちのグループが、すでに夕方であるにもかかわらず、それぞれ浜辺の数カ所に散らばって甲羅干しをしていた。サングラスのおじさんたちはオープンカフェの椅子に腰掛けてアルコールで赤くなった白い顔を夕陽にさらしている。戻ってホテル向かいのショッピングモールにあるマーク&スペンサー*1でビールと水を買う。それらを冷蔵庫にしまってまた出かける。今度はホテルの南側、スピノーラ湾の方向にサンジュリアンの街なかを歩いてバス停を確かめたり、レストランを物色したり。アルカディアという名のスーパーで買い物もしたのだが、ここでは駐車場利用者専用のレジに並んでしまって警備員に出口まで誘導されてしまったり。ホテルでビュッフェ形式の夕食。こちらの時間で22時には就寝。
朝食もビュッフェ。しかしこちらのほうが食べたいものが多く並んでいて夕食よりも食欲をそそられる。今朝はコーヒー、オレンジジュース、クロワッサン、デニッシュ、ソーセージ二種、ゆで卵、焼きトマト、ヨーグルト、各種フルーツなどで。バスで一日観光。8時出発、9時フェリー乗船、9時15分ゴゾ島着。ローカルかつシンプルなバスに乗り換え、ジュガンティーヤ神殿へ。B.C.3600年頃の建立とされる巨石神殿はかなり崩れてはいたものの、その時代の人びとの生の一端(技術力の高さ、暮らし向きの困難さなど)を偲ばせるに充分であった。その後ホメロスの「オデュッセイア」で知られるカリプソ*2の洞窟へ。ラマラ湾の赤い砂浜が印象的。昼食は地元の100人くらいの人たちも入っていた大食堂で、キッシュとシイラのパイ(ランプーキパイ)を地ビールCISK(チスク)で。
島民の避難所の役割を果たしてきたというチタデル(大城塞)は、その囲みの城壁のうえをぐるり360度回ることができる。ここにある大聖堂は途中で資金が尽きたためにドームの部分がない。その代わりにドームに見えるように描かれた騙し絵の天井画があるという。城壁からの眺望は、足下にヴィクトリアの街を見下ろせる南側もいいが、やはり自然の多い風景の遠くの所々に小さな市街地を望む北側のパノラマがすばらしい。緑のモニュメントヴァレーかと思わせるような地形あり。その後はアズール・ウィンドウと呼ばれる海に突き出た岩が波の浸食を受けて穴をあけたものを見物。内海の静けさとは打ってかわって外海は大荒れ。文字どおり木の葉が舞うように揺れる小舟の縁にしがみついて船頭の操船テクニックをひたすら崇めるのみ。飛沫を受けるほど間近に体感した海の青には、色そのものにまろみというかジェルのような弾力があるかのように感じたが、あるいはたんに溶け込んでいる微細な気泡のせいか。帰りのフェリーのデッキで日本の中年女性と話す。音楽の仕事を辞めてでも小説を書きたいのだとか。子供はなく、離婚歴のある人。青い海原に傾いた日射しの照り返しが眩しい。夕食はその彼女とスリーマに近い海岸のレストランで。東京での生活や田舎に帰ってからの暮らしなど、彼女がしてくれる話を聞く。チキンのカレーソース、カルボナーラ、サラダなどをシェアして、ビール2杯。

*1:ロンドンに留学していた時のボスだったティムが「こっちでは洒落でマーク&スパークスなんていう人もいますけどね」なんて言ってたのを思い出す。

*2:「覆い隠す者」という意味があるらしい。カリュプソはアトラスの娘、美しくて情が厚いとされる海の精霊。『オデュッセイア』では、オデュッセウスはカリュプソが住むというオーギュギエーの島に漂着し、彼女に愛されて7年間共にそこで暮らしたことになっているのだが、その島がなぜかゴゾ島であり、その場所がこの洞窟だとされているのである。この洞窟周辺は『オデュッセイア』(呉茂一訳)の第五書では次のように歌われている。「洞穴のまわりは一面、よく繁茂した木立に囲まれ、/榛の木や川柳や、匂いのよい糸杉などが生い茂った、/そのあいだに翼の長い鳥のやからが、巣をいとなんでいる、/小みみずくやら隼やら、細長い舌をした海がらすのたぐいなど。/この鳥どもは、もっぱら海でのはたらきでいのちをつなぐ、/それと同じところ、うつろになった洞のまわりは、またみずやかな/家ぶどうが一面に蔓をのばし、果の房をいっぱい着けていた、/いっぽうには涌き泉が、次第よろしく四筋の流れに、透澄な水を/たがいに近く並べあい、あちらこちらと、てんでの向きにせらいで落ちる、/あたりは一面、柔草の牧原をなし、すみれやあるは芹などいっぱい/生えそろう、こうした様子を眺めては、不死の神々さえも、ここへ/おいでの折は、胸をうたれて感じ入り、心を慰められるであろう」。ゴゾ島も古の昔は、このようであったか。それにしても、狭い洞窟ではある。