IWATA Yasuo, Hoelderlin

『いま哲学とはなにか』岩田靖夫岩波新書、2008年、ISBN:4004311373)を読み始める。「現代の切迫した諸問題に対する哲学者としての筆者の応答」(あとがき)であり、「哲学者として、現有のすべての力を投入した」(はじめに)とされる力作である。
読んでいると、やはりユダヤキリスト教思想をベースにレヴィナスの独特に倫理的な他者論の理解を中心に展開する第IV章「他者という謎」が圧巻で、本書のキモの部分かとも思うが、個人的には「第III章「究極根拠への問い」でハイデガー(のいう、未来のエルアイグニスEreignis*1の生起において、もっとも脆いが、同時にもっとも繊細な躍動でもあるものとしての言葉Sprache)にふれた部分、最終章「差別と戦争と復讐のかなたへ」でアリストテレス政治思想の現代形態としてのロールズの正義論を土台にした議論が気になるところ。
「人間はさまざまな測定をするが、とりわけ優れた測定が、おそらくは、詩作なのである」(p109)。

 しかし、詩人は、詩人であるならば、天と地の現れを単に描き述べるのではない。詩人は、天の面ざしの中に、かのものを呼ぶのである。かのものとは、己を露わにする(Sichenthuellen)ことにおいて、まさに己を隠す(Sichverbergen)かのものである。詩人はわれわれに親しいさまざまな現れの中に(in den vertrauten Erscheinungen)訝しいものを呼ぶのである。その訝しいものの中で、かの目に見えないもの(das Unsichtbare)が、知られざるもの(unbekannt)として留まるために、己を贈る。p111

「詩人は言葉を作るのではなく、贈られてくる言葉に耳を澄ますだけである」(同上)。

いま哲学とはなにか (岩波新書)

*1:ここでは「エルアイグニスというドイツ語は、日常語としては「出来事」を意味している。しかし、ハイデガーはこの語によって、現存在の存在了解と存在者の存在(生起)との不可分の共属関係の到来を意味する」(p105)と説明されている。