YAMASHIRO Mutsumi,SAKAGUCHI Ango

文学のプログラム (講談社文芸文庫)

  • 戦争について

 われわれは、その芯にある美しさにひかれて「戦争」に帰りつつある。危険な日本回帰だと、帰ることそのものを否定しても始まらない。問われなければならないのは、そのことに「うしろめたさ」を感じているかどうかということ、そしてほかならぬその「うしろめたさ」から書くことができるかどうかということである。
 そこから書くことはできる。のみならず、そこから書かねばならない。安吾において読んだように、帰ることの「うしろめたさ」から書くときにのみ、文学は生まれる。その場合にのみ、書くことは「戦争」がその芯から匂いたたせている魅惑的な美しさに抗しうる。戦争の現実的な力(power)に対するに文学の力(virtue)をもって処することができる。それが信じられないのなら、書くことにどんな意味があるというのだろうか。(『文学のプログラム』p96、引用・ページ数は太田出版の単行本による)