OHTA Tetsuo, Arendt

『ハンナ=アーレント(太田哲男、清水書院、2001年、ISBN:4389411802)を読む。

  • 意志

 アーレントはこの本の「ドゥンス=スコトゥスと意志の優位」において、中世哲学者ドゥンス=スコトゥスを極めて高く評価する。彼女はスコトゥスの言葉、

 意志する、否と意志する、という正反対のことを同一の対象に対してなしうるというのは意志の能力なのである。

を引用(『精神の生活』下、157)して、「これに加えてさらに」と、次のように続ける。

 意志は保留するということもできる。このような保留は他の意志行為の結果であるけれども−−この点では後述するニーチェ的・ハイデガー的な〈意志しない意志〉と真っ向から対立しているのだが−−この第二の意志行為は、人間の自由の、つまり外からの強制的決定をすべて退けることができるという人間の精神の能力の重要な証拠なのである。(同、158)

 これまでに見てきたように、アーレント全体主義と「必然性」というカテゴリーの連関をさまざまな著作で論じていた。他方、『人間の条件』などでは、政治の核心に「自由」を置いていた。人間の精神のうちで、自由につながるものは何か、それを強調した哲学者は誰だったか。考えることを放棄して「命令に従っただけだ」というアイヒマンの対応を根本的に批判する哲学的立場を、アーレントは模索して、ドゥンス=スコトゥスに出逢ったといえよう。p216-217


ハンナ=アーレント (Century Books―人と思想)