ABE Masahiko, afterimage
『スローモーション考』(阿部公彦、南雲堂、2008年、ISBN:4523264759)を読み始める。
- なぜ、詩はゆっくり終わるのか? 表象が人の心に食い込む、その仕組みが詩の終わりに隠されている、と著者はいう。そして外部、他者としての残像について。
我々は知らず知らずのうちに、ノスタルジア、トラウマ、こだわり、怨念、愛着といった制御の難しい心の動きに翻弄されている。それがまさに文学をはじめさまざまな芸術作品の主テーマともなってきたわけだが、ここでも記憶というよりはもっとしぶとくて、また、まるで現在そのものでもあるかのように振る舞う残像という存在が大きな威力を発揮している。おそらく問題は、残像が過去のものなのに現在であるかのように居残り、連鎖し、動きを表すということ、そしてそれが絶えず我々の「錯覚」を引き起こしているということなのである。印象、イメージ、象徴、アレゴリー、差延など、二十世紀文芸批評の鍵となってきた概念はいずれも残像をめぐるトリッキーな心の動きに何らかの形で焦点をあてるものだった。p274-275